タイトルは、いま読んでいる本の栞に書かれている言葉だ。少しだけ読み進めていくうちに、この言葉に込められた意味が想像できたのだが、その通りにとても素敵な内容だった。友人が「これ、とても良かったから読んでみて」と貸してくれたのだが、A5サイズより一回り小さくて厚さ3cmの小説。「読み応えありそうだな」と最初思ったのだが、読み進めていくうちに読み終わるのが惜しいくらい心が綺麗になっていく内容だった。簡単にあらすじを話すと・・・離婚してシングルマザーになった母親と高3の長女と8歳の次女の3人暮らしの家庭に母親の恋人が現れる。専門学校に進学したい長女は、家庭に余分な経済力が無い事を充分承知していたので、少しでも学費を稼ぐべくアルバイトに明け暮れていた。ある日のバイト帰りの帰宅途中に、暗い公園で一人座る妹を見つける。事情を聴くと「ママの恋人が家に来ていて、機嫌が悪いと追い出される」と言う。それまでバイト漬けの毎日だった長女は、初めて聞く話に驚く。帰宅後母に問いただしても要領を得ない。おまけに、専門学校の入学金を振り込んでいない事を尋ねると「恋人に貸してしまった。進学は来年にして」と言われる。「このままではいけない」と感じた長女は、ハローワークで住み込みの仕事を見つけ、妹を連れて家を出てずっと妹を養いながら生きていく。その過程で知り合った周囲の大人たちの、過剰ではない親切心が素敵なのだ。ずっと見守りながら本当に困った時だけ声をかける。それも、「こんな事も出来る」「こんな方法がある」ということを提示して、姉妹に受ける気があるかを確認する。その好意を、姉妹は遠慮しつつも謙虚に受け取ったり辞退したり、堅実に毎日の暮らしを積み重ねていく。その受けた好意を、少しでも他の人に返していきたいと考えていた姉妹は、やはり謙虚に押し付けることなく周りの人に還元する。それはやがて、血の繋がりではない緩やかで優しい家族めいたコミュニティを作る。
その中で重要なキーマンになるのがヨウムのネネだ。この本のタイトルは「水車小屋のネネ」で、当初は「はて?」と感じたが、住み込みの仕事の条件に「鳥の世話じゃっかん」と付記されていたのだ。この鳥の世話が、人々の関係を紡いでいく。読んで頂かないと、簡単に説明できないので是非ご一読を。家族の関係性・他者への思いやりや優しさの表し方・仕事を選ぶこと・学歴とは等の様々な事を思い、生きる事とは?幸せとは?普通とは?を考えさせられる。
「とても良かった!」と勧めてくれた友人に感想を話したら、「私は、理由は分からないのだけれど読みながら涙が自然に出てきてしまった、それも何度も」と言っていた。人間て良いな、上から目線ではなく人には優しくしたいな、幸せの基準は人それぞれだな、と思った作品だった。やっぱり、本は良い!【ベティ】
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