テレビ欄の「寺越事件」という文字が妙に引っ掛かり、深夜のドキュメンタリー番組を観た。今年1月に放送された番組の再放送との事。冒頭の事件のあらましを伝えてる途中で、自分の記憶が甦った。事件の内容は割愛するが、この寺越武志さんは拉致被害者には認定されていない。母親の友枝さんは、これまでに66回の訪朝を繰り返しており、87歳の時の訪朝を「これが最後」と心に決めて出掛けて行った。元気なうちは懸命に働き、北朝鮮に住む息子・武志さんに仕送りを続けてきたそうだ。武志さんの今現在の妻子の安全を考えれば一時帰国した息子に「このまま日本に留まれ」とは言えず、本人も望まなかった(監視下では本音は言えないだろうが)。13歳で海での遭難死とされ写真だけの葬儀を執り行い、24年後に生きていることが分かり訪朝。その時の母親の気持ちは、天にも昇るべく高揚し希望に満ちていただろう。その12日後に拉致被害者の蓮池さんたちが帰国した。自分の息子は、日本に来ても戻るという試金石に使われたのか?お国に捧げた息子と考え諦めなければならないのか、自分が無知故に行動を誤ったのか等々、母親の友枝さんは悩み苦しみ抜いた。現在91歳。「自分の事も出来ないようになってしまった」と小さい声で話し涙を流す。最後に息子に会った際に「これからは満月を眺め、お互いを思おう」と別れてきた。満月の夜には、杖をつき家族に手を引かれ空を仰ぐ友枝さん。息子の生存が分かってから36年間、子を思い自分の老いに落胆し、泣き続けてきたのだと思うと胸が痛い。一体、誰が悪いのだろう。拉致した国が悪いに決まっているが、息子を日本に戻したいだけの母親、今の家族を守るため北朝鮮に留まるしかない息子、友枝さんを連れて最初に訪朝した当時の社会党(後に北朝鮮の言いなりの本「再会」を上梓)、何もできない日本政府。結局、弱者が泣き寝入りして死んでしまって忘れられていく。子を思う思いは、どこに行き着くのだろう。声も出せないほど衰え弱った母親の涙だけが瞼に残った。【ベティ】
人の思い

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